九州あいうえおの旅(福岡)

和装美 滝口

2019年06月19日 12:27

[6日目:前編] 飯塚市(福岡)

5年前にNHKの朝ドラ「花子とアン」を観てからずっと行きたかった処、筑豊の炭鉱王、 伊藤伝右衛門邸。そこはなんと友人宅から徒歩5分の場所にありました。大正時代から昭和初期にかけて本邸として建てられた邸宅は飯塚市の有形文化財に指定されているそうです。

門は福岡市天神の赤銅御殿から移築されたものだそうです。

表玄関を入るとすぐ左手に立派な応接室がありました。アールヌーボー調のマントルピースやイギリス製の菱形のステンドグラス、洗練された格式のあるシャンデリア…まるで大正時代にタイムスリップしたようです。

このお部屋は茶室です。京都から呼びよせた宮大工による美の技法は金箔の襖、帯地をほどいて埋め込んだ壁、網代(あじろ)天井と、部屋の至るところに惜しげなく使われています。

一畳たたみを敷き詰めた長い廊下は、天井も舟形にデザインされていて特に見処です。

私たちが訪れた翌日、こちらで女流棋師の対局があるとのことでした。

池を配した広大な回遊式庭園は国指定名勝になっています

驚いたのはまるで茶室のような立派なトイレです。まだ一般家庭には全くなかった水洗トイレを宮家から嫁がれた白蓮の為に技を駆使して造らせたそうです。

二階は白蓮だけの居室で階段も総ひのきで造られていました。

階段を上がる途中に、にじり口が造られていました。女中がお茶を出し入れする処で、許可がないと部屋に踏み入ることはできなかったそうです。

柳原白蓮が伝右衛門の妻として10年間過ごした居室です。ここは竹の節だけを残した欄間や銀箔を張った襖など驚くような技法を使って白蓮好みに仕上げてあります。天井に結界を設け、平民はこれを境に立ち入り禁止とする等、伝右衛門が明治天皇の血をひく白蓮に対して精一杯気を遣っていたことが推測できます。

白蓮の居室から見た庭の景色です。政略結婚でこの地に嫁がされた白蓮は、どんな気持ちで庭を眺めていたんでしょうか…

長押(なげし)に施された精巧な木彫り、落ち着いた雰囲気の聚楽壁など様々な芸術的技法を取り入れた装飾があちらこちらに見られます。

浴室の天井は換気の為に竹を組んだ網代(あじろ)天井に…一流の宮大工の知恵がそこかしこに見られました。

洗面所の鏡にも繊細で豪華な木彫りの枠が…

この蔵は今でいうクローゼット、全て白蓮の衣装が入っていたそうです。瓦の先に伊藤の名前が入っていました

次の間(女中部屋)から見た台所です。こんな所のガラス戸のさんも次の間の欄間と同じデザインに…そのセンスに脱帽です。

2300坪の敷地に25部屋の広大な家屋は、伝右衛門が宮家から嫁いだ妻 白蓮の為に贅を尽くして改築を続けた美の邸宅でした。

関連記事